【桜の樹の下には】

   梶井基次郎

 

…………あぁ、これはまた……とんだ狂人だことで……


 

 

 

あ、いや、そんな『狂人』というほど狂ってはいない。

 

 

 


 

桜は綺麗で美しい。

 

私だってそう思うし、何故そこまで美しくみえるのか、不思議にだって思う。

桜には妖艶な魅力があるとも思っている。



ただ、不安に思ったりはしないが……

・・・・しかし、もしかしたら気づいていないだけで、不安に思っているかもしれない。




よく、恐怖と恋愛との胸の高鳴りを勘違いしてしまう事があると言うが、私の場合はそれかもしれない。

とくに、夜月明かりのなかに浮かび上がる桜をみたりしてると、説明のしようがない胸の高鳴りに襲われる。
音で言ったら、ただ耳に聞こえるのではなく、腹に響いてくるような具合にだ。



 


まぁ、そんな桜の美しさに不安を覚え、桜の樹の下には死体が埋まっていると考え、とすれば桜の美しさにも自分の不安な心持にも説明がつく…………らしい話。



 

 

この話の主人公が、水溜まりに隙間なく浮かんでいる、薄羽かげろうの死体を見て喜んでいる気持も、或いは分からない事もないかもしれない。


実際にみたわけではないから何とも言えないが、ここの文章を読んでにやけている自分は確かにいた。


 

 


………まぁでも、その悦びに支配されてしまったらしい主人公は、もしかしたら、本当にただの狂人なのかもしれない。



 

 

ほんの二、三ページでゾクゾクさせてくれるような文章がかけるんだから、やっぱすごいなぁ・・・とか思った。



 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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